Theme.01 広島県太田川水系 2日間で合計長寸10mを目指す!!

見たことのないの光景

実は取材前日に友人から情報が入り、内容的には信じられないほど、ある河川が好転しているとのことだった。今回の取材が決まった時点で「時期的にはいつ始まってもおかしくないです。もしタイミングが合えば、とんでもないことになりますよ」と、宇津木さんには話していたのだが、僅か数日のズレでこのクジを引き当てることになる。この引き運をしっかりと生かせるように、仮眠を取らずに薄暗い河口へ様子を見に行く目的で車を走らせた。

聞いた話では満潮からの下げで活性が上がるらしく、潮汐と照らし合わせると時間的には昼以降が高活性の時となる。しかし、何かが心に引っ掛かる。自分で確認できていないという不安感が妙に心に引っ掛かるのだ。その神経質な性格が今回は良い方向に作用してくれた。

まだ白ける前の川面に目を凝らしてみると、流れの規律を乱すように不自然に何かがざわめいているではないか。間違いない、コノシロが食われている!

ここから、今回の取材は過去に類を見ないほどの凄まじい展開となっていく。

そそくさとウェーダーを履き濱本さんと目を合わすと、見たことのない河川の光景に目を丸くしていた。長く市内河川で振ってきた僕の目から見ても、ここまで大規模なコノシロの群れもその食われ方も、間違いなく過去最高の部類に入るものだった。

河川が沸騰するという表現がピタリと当てはまる光景だが、まずはこの状況で自分のルアーをシーバスにアピールしてやる必要がある。表層レンジ、強い波動、大きな振り幅に飛距離。憶えてくれているだろうか? そう、今ここでは間違いなく〝バデル〟である。動画カメラマンが後ろに控え、コノシロの群れを少し外してのリトリーブに、2人のロッドが直ぐに弧を描いた。

「ありえへん!」(濱)

そう、あり得ないのである。僕から見てもあり得ない状況なのである。釣れるシーバスは全て70cmオーバーで、殆どが80cm後半。さらに25cmほどのコノシロを大量に捕食している状態であり、ウエイトはどれも5kgを超えてくる。1尾釣ってはフックが伸び、それをプライヤーで戻し、甘くなればルアーごと替えるという作業を延々と繰り返す。『ヴァンクール92H』で5kgを超える魚を強引に寄せ、ファイトタイムをとにかく短縮し、数を伸ばしていった。

徐々に日が昇り少しずつ活性が下がっていく。光量が増えると明らかに食いが悪くなってきたのだが、そのタイミングでより沖のブレイクを叩ける、遠投重視の『ビットブイ』を投入。当然のように飛び出した魚はこの日一番の重量感を手元に伝えてきた。大きなストロークで頭を振る独特のファイトは90cm以上のシーバスだけが持つひとつの特徴である。ネットインしたシーバスは、予想を裏切らない92cmのランカーだった。

少し川面が落ち着いた頃、2人ともふと我に返り今回の取材のミッションを思い出した。この爆釣劇でかなりカウントが進んだはずである。

「クリボー(カメラマンのアダ名)、今全部で何cmになった?」

「え、ええっと……9m50cmを超えたのであと一本出たら達成ですわ!」

何と、実釣数時間で合計長寸10mにあと50cmまで迫っていたのである。これは50〜60cmの数で稼いだものではなく、全てランカーサイズで揃えられたものであるからなおさら驚きである。と同時に、「ランカークラブ」という名に恥じない結果となった。

この爆釣劇は朝マヅメから約2時間続いたわけだが、8時頃になると一変、シーバスは全くといって良いほど口を使わなくなった。あれだけ川面を覆っていたコノシロも姿が見えなくなり、この状況はしばらく続くと判断した僕らは、いったんホテルに戻って休憩をとり、15時からもう一度トライすることにした。

自分が想定した
最適なドラグセッティングを
越えれば、それがランカーだ。